ICLはやめた方がいい?――向いている人・向いていない人をやさしく解説
ICL(眼内コンタクトレンズ)は、世界で200万眼以上の挿入実績がある代表的な屈折矯正手術の一つです。安全性と見え方の満足度から注目が高まる一方で、適応外となるケースや別の治療が良いケースも確かにあります。本記事では、ICLの基礎、メリット・デメリット、適応条件、年齢による考え方を整理し、「やめた方がいいケース」と「向いている人・向いていない人」をわかりやすくまとめます。
そもそもICLとは?レーシックとの違い
ICL(Implantable Contact Lens)は、角膜は削らず、眼の中(虹彩と水晶体の間)に小さなレンズを挿入して近視・乱視などの屈折異常を矯正する手術です。切開創はおよそ3mm前後で、必要に応じてレンズを取り出して元に戻せる可逆性が特徴。術後はメガネやコンタクトの手入れから解放され、コントラストの高いクリアな見え方を実感する方が多い治療です。
レーシック(角膜をレーザーで削る方法)に比べ、ドライアイや近視の戻りのリスクが低い傾向がある一方、内眼手術に分類されるため固有のリスク(後述)も伴います。
ICLのメリット・デメリット
メリット
- メガネ・コンタクトから卒業し、日常を裸眼で過ごせる
- 角膜を削らない可逆的な手術(合わなければレンズ交換・抜去が可能)
- 長期にわたり視力の安定が期待できる
- レーシックが適応外(角膜が薄い/強度近視など)の方でも候補になることが多い
- 災害時なども裸眼で見える安心感
デメリット
- 費用が高め(自由診療のためレーシックより高額になりやすい)
- 適切な度数・サイズのレンズを取り寄せる都合で、実施まで待機期間が生じる場合がある
- 内眼手術ゆえにリスクはゼロではない(ハロー・グレア、眼圧上昇、レンズの偏位・回旋、白内障・緑内障・虹彩炎、角膜内皮細胞の減少、極めて稀に眼内炎など)
※合併症は適切な術前検査・衛生管理・術後ケアで多くがコントロール可能ですが、発生確率はゼロになりません。術前に十分な説明と同意を受けましょう。
ICLを受けられる人・受けられない人(代表例)
受けられる人(適応の目安)
- 原則21歳以上(上限は明確にないが、屈折安定や年齢変化を考慮)
- 視力(屈折度数)が術前1年以内に安定している
- 前房深度 2.8mm以上が目安
- 角膜内皮細胞密度が年齢相応の規定以上
- 強度近視・乱視などでレーシックが不向きでも、ICLなら適応になることが多い
受けられない人(禁忌・慎重適応の例)
- 21歳未満や、近視が進行中で屈折が安定していない
- 前房深度が2.8mm未満など眼内の解剖学的条件が合わない
- 妊娠中・授乳中(ホルモン変化により度数が不安定になりやすい)
- 活動性の眼疾患・全身疾患があるなど、医師が不適切と判断した場合
※具体的な基準・可否は施設やレンズ仕様、個人の眼の状態で異なります。最終判断は精密検査と医師の総合判断によります。
「ICLはやめた方がいい?」といわれる理由
1. 手術リスクの観点
ICLは内眼手術にあたり、極めて稀に眼内炎(細菌が侵入し強い痛みや視力低下を起こす)が起こり得ます。発症時は抗菌薬・消炎治療など迅速な対応が必要です。そのほか、ハロー・グレア(光がにじむ/まぶしい)、眼圧上昇、レンズの偏位・回旋、白内障・緑内障・虹彩炎、角膜内皮細胞の減少などの合併症が報告されています。
術前の洗浄・滅菌、術前後の点眼・生活上の注意を徹底し、医師の指示を厳守することが何より重要です。
2. 年齢・将来設計の観点
ICLは水晶体を温存する手術です。したがって、老眼や白内障(いずれも水晶体の加齢変化)が始まるとICLそのものでは解決できません。一般に45歳前後から老眼を自覚する方が増え、50歳以降で白内障が進行することがあります。すでに老眼が進み始めている場合、白内障手術+多焦点眼内レンズといった他の選択肢が生活設計に合うこともあります。近年は老眼対応ICL(多焦点IPCL)も登場していますが、見え方の特性や適応の判断は個別性が高いため、複数の選択肢を比較検討することが大切です。
ICLが向いている人・向いていない人
向いている人
- メガネ/コンタクトの不便やトラブル(装用感、ドライアイ、職業上の制約)が生活の質を下げている
- 強度近視・乱視でレーシックが適応外/不安な方
- 45歳くらいまでで、当面は老眼の影響が小さいと見込まれる
- メリットとデメリットを理解し、万一の追加対応(レンズ交換・抜去等)も受け入れられる
向いていない人
- メガネ/コンタクトで特段の不自由がない、費用対効果を感じにくい
- すでに老眼が進行している、または近い将来白内障手術が視野に入る
- 術後ケア(点眼・受診・生活制限)を確実に守れない可能性が高い
- 術前検査で解剖学的条件が不適、あるいは全身/眼の疾患で禁忌に該当
「ICL以外の選択肢」も同時に検討を
- レーシック/PRK/LASEK:角膜の形状・厚み・度数で適応が決まる。費用は比較的抑えやすいが可逆性はない。
- 老眼対応ICL(多焦点IPCL):老視世代の選択肢。見え方の特性に個人差があるため丁寧な適応判断が必要。
- 白内障手術+多焦点眼内レンズ:白内障が進行している/発症が近い年齢帯では合理的な第一選択になり得る。
- オルソケラトロジー:就寝時レンズで日中裸眼を目指す方法。可逆的だが毎日の装用・ケアが前提。
- 高性能眼鏡・使い捨てコンタクト:コストやリスクを最小化したい場合の現実的選択。
手術までの流れ(イメージ)
- 適応検査・カウンセリング:屈折度数、角膜形状、前房深度、内皮細胞密度などを測定。既往と生活ニーズを整理。
- レンズ選定・手配:眼のサイズ・度数に合わせてレンズを選定。取り寄せに時間を要する場合あり。
- 手術当日:局所麻酔(点眼+必要に応じ追加)、小切開からレンズ挿入。所要は片眼約10〜15分。
- 術後ケア:点眼・生活制限を遵守。定期検診(翌日、1週間、1か月…)で見え方と眼内状態を確認。
※施設により詳細は異なります。運動・入浴・化粧・仕事復帰の目安も事前に確認しましょう。
まとめ:ICLは「合う人には強力」、ただし条件と将来設計がカギ
ICLは、角膜を削らず可逆的で、強度近視や乱視の方にも適応しやすい有力な選択肢です。一方で内眼手術のリスクと、老眼・白内障という将来の変化を織り込む必要があります。
「自分の目に合うか」「生活上のメリットがデメリットを上回るか」を丁寧に吟味し、適応検査と複数選択肢の比較を通じて納得のいく決定を目指しましょう。